📖 「前からあった」に、言い返せない
— 記事本文へ続く —
札幌で築28年のアパートを持つ若い大家さんは、退去立会いでフローリングに大きなへこみを見つけ、原状回復費として18万円を伝えました。ところが入居者は「入居したときからあったキズだ」と主張。入居時の写真は1枚もなく、修繕履歴のメモすらありませんでした。証拠がない主張は通らず、12万円分を自己負担。立会いの場で何も言い返せなかった悔しさが、今も忘れられないそうです。
退去立会いで、入居者と「言った言わない」の水掛け論になる大家さんは後を絶ちません。原因のほとんどは、修繕や入居時の写真記録を残していないことです。スマホ1台あれば今日から無料で始められる対策で、退去トラブルの大半は防げます。本記事では、元設備設計士で、札幌で築古物件を自主管理する筆者が、写真がないと退去時に何が起きるか、撮る場所・撮り方・保存の仕方、そして入居時チェックリストとの組み合わせを整理します。
読み終える頃には、退去立会いが怖くなくなり、1部屋15分の記録で数十万円を守れるようになります。
📖 この記事でわかること
退去の負担が「入居時と退去時の比較」で決まり、比べる材料がなければ大家が不利になる理由と、12万円を自己負担した実例がわかります。入居前・修繕前後・退去時の3つのタイミング、各4方向から撮る方法、日付と部屋ごとの保存、現況確認書との組み合わせを表とチェックリストで確認できます。
😨 考え方: 写真がないと、退去立会いで何が起きるか
退去時の負担割合は、証拠で決まります。国土交通省の原状回復ガイドラインでも、判断の前提は「入居時と退去時の状態の比較」です。経年劣化や通常損耗は大家の負担、入居者の善管注意義務(部屋を丁寧に使う義務)の違反は入居者の負担、が原則。ところが比較する材料がなければ、「入居時からあった」という主張を否定できず、大家側が不利になりやすいのが現実です。
冒頭の例で重要なのは、大家さんが悪質だったわけではないという点です。記録の習慣がなかった、ただそれだけで12万円を損しました。「記憶しているから大丈夫」と記録を残さないと、記憶や口約束は、争いになった瞬間に何の力も持ちません。
写真がないと起きることは3つ。入居者の主張を否定できず、大家が負担する。修繕したことを証明できず、業者への支払い根拠も曖昧になる。保険の申請で「損害の証明ができない」と否認される。どれも、写真が数枚あれば防げたものです。
設備設計の仕事では、工事の前・中・後の写真を撮るのが当たり前で、写真のない工事は「やっていない」のと同じ扱いになります。大家の修繕も同じで、写真は「やった証拠」であり「やっていない証拠」でもあります。
逆に言えば、写真記録さえあれば防げたトラブルです。記録を残せる大家は、それだけで一歩先を行きます。退去のたびに「揉めたらどうしよう」と不安になる根本原因は、手元に証拠がないこと。記録の習慣は、この不安そのものを消します。
💡 ポイント
退去の負担は「入居時と退去時の比較」で決まります。比べる材料がなければ大家が不利。記憶や口約束は、争いになった瞬間に何の力も持ちません。
📷 やり方: 撮る場所・撮り方・保存の仕方
記録で大切なのは「いつ・どこを・どんな状態か」が、後から第三者にも分かることです。撮影のタイミングは3つ。入居前(原状)は、全部屋の床・壁・水回りを各4方向から。修繕の前後は、施工前と施工後を同じアングルで、領収書とセットで。退去立会い時は、キズや汚れの接写と、部屋全体の引きの写真。
撮り方のコツは4つ。部屋の四隅から対角に向けて撮る(部屋全体が入る)。キズは接写と、位置が分かる引きの2枚を撮る。定規やコインを置いてサイズを分かるようにする。全ての照明を点け、カーテンを開けて明るく撮る。暗い写真は、後で「見えない」と言われます。
意外と見落としがちなのが、修繕の前後を同じアングルで撮ることです。「ここを直した」という事実が一目で伝わり、業者への支払い根拠にもなり、税務上の「原状回復」の証明にもなります。費用はスマホなら0円、クラウド保存を使っても月数百円程度です。
保存は、撮影日が分かる形で、物件・部屋ごとにフォルダ分けします。スマホのカメラは日付を自動で記録しますが、フォルダ名に「201号室_2026-04_入居前」のように日付を入れておくと、探すときに迷いません。クラウドに自動でバックアップされる設定にしておけば、スマホを替えても消えません。
ここまでやっても、かかる時間は1部屋あたり15分ほどです。たった15分の写真記録が、数十万円の損失から守る盾になります。これなら今日から始められます。退去のたびに15分を惜しんで、数十万円を失う方がずっと高くつきます。
| タイミング | 撮るもの | 残すもの |
|---|---|---|
| 入居前(原状) | 全部屋の床・壁・水回りを各4方向 | 現況確認書に双方サイン |
| 修繕の前後 | 施工前・施工後を同じアングル | 見積書・領収書とセット |
| 退去立会い時 | キズ・汚れの接写と部屋全体の引き | 入居時写真と並べて負担を決める |
| 突発の破損 | 直す前の被害箇所と型番 | 保険申請の証拠 |
🏆 マインド: 入居時チェックリストとの組み合わせで、証拠で守れる大家に
写真の力を最大にするのは、入居時チェックリスト(現況確認書)との組み合わせです。入居時に、入居者と一緒に部屋を見て、床・壁・建具・設備の状態をリストに記入し、写真を撮り、双方がサインする。この1枚があると、退去時の比較は「写真とリスト」対「記憶」ではなく、「双方が確認した記録」対「記憶」になります。
現況確認書の項目は、部屋ごとに、床(キズ・へこみ・汚れ)、壁とクロス(キズ・汚れ・画鋲の穴)、建具(ドア・引き戸・網戸)、設備(給湯器・コンロ・換気扇・エアコン)、水回り(キッチン・浴室・トイレ・洗面)。「あり・なし」と、ありなら写真番号を書く。入居者にも控えを渡します。
退去立会いの前に、入居時の写真とリストを見返しておきます。「床のへこみは入居時からあり、写真番号3」と分かっていれば、立会いで迷いません。逆に入居時にない傷は、写真を並べて示すだけで、入居者も納得しやすい。記録がある側は、落ち着いて話せます。
筆者の物件でも、この仕組みを始めてから、退去精算での揉め事はゼロになりました。特別なことではなく、写真とサインのある1枚があるだけです。精算の根拠を示せると、後ろめたさのない請求ができ、入居者との関係も壊れません。
冒頭の大家さんは、12万円の後、次の入居から現況確認書と入居時の写真を始め、次の退去では入居時の写真を見せて5分で負担が決まりました。「立会いが怖くなくなった」と話していました。今日やることは、いま空いている部屋、または次に入居が決まる部屋で、4方向の写真を撮ってフォルダを1つ作ることです。
- ✅ 入居前に全部屋の床・壁・水回りを各4方向から撮影した
- ✅ 入居時チェックリスト(現況確認書)に記入し、入居者と双方サインした
- ✅ 修繕の前後を同じアングルで撮り、見積書・領収書とセットで保存した
- ✅ 写真は撮影日が分かる状態で、物件・部屋ごとにフォルダ分けした
- ✅ クラウドに自動バックアップされる設定にした
- ✅ 退去立会いの前に、入居時の写真とリストを見返した
📌 この記事のまとめ
- 退去の負担は「入居時と退去時の比較」で決まり、比べる材料がなければ大家が不利になります。記憶や口約束は、争いになった瞬間に何の力も持ちません。
- 撮るタイミングは入居前・修繕前後・退去立会いの3回。床・壁・水回りを各4方向から、日付が分かる形で物件と部屋ごとにフォルダ分け。1部屋15分で数十万円の盾になります。
- 入居時チェックリストに双方サインをもらい、写真と組み合わせれば揉め事はゼロに近づきます。まずは次に入居が決まる部屋で、4方向の写真を撮ってフォルダを1つ作ってください。


コメント