📖 退去で揉めて、弁護士を呼んだ
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退去立会いで壁のヤニ汚れを見た若い大家さんは、クロスの全面張替え12万円を入居者に請求しました。返ってきたのは「契約書に禁煙の条項がない。払わない。弁護士に相談する」という返事。入居時の写真もなく、証拠は何もない。結局、大家側も弁護士に相談することになり、請求はほとんど通らず、時間と費用だけが残りました。
原状回復は、知らないだけで損をする分野です。しかし、国土交通省のガイドラインを押さえ、入居時に記録を残しておけば、退去のトラブルはほとんど防げます。本記事では、元設備設計士で、札幌で築古物件を自主管理する筆者が、ガイドラインの3原則、大家負担と入居者負担の早見表、揉めやすいグレーゾーン、そして「防ぐためにやるべきたった1つのこと」と敷金精算の手順を整理します。
読み終える頃には、次の入居者を迎えるときに何を記録すればいいかが分かり、退去の精算を感情ではなく根拠で淡々と進められるようになります。
📖 この記事でわかること
国土交通省の原状回復ガイドラインの位置づけと、通常損耗・経年劣化は大家負担という3原則がわかります。項目別の負担区分の早見表、ヤニ汚れや画びょう穴など揉めやすいグレーゾーンの判断軸、入居時の記録で9割防げる理由、敷金精算の手順を、表とチェックリストで確認できます。
⚖️ 考え方: ガイドラインの3原則と、負担区分の早見表
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、法的な強制力はありませんが、裁判や調停では事実上の判断基準として使われています。2020年の民法改正でも原状回復の原則が明文化されました。このガイドラインを知らずに敷金から差し引くと、返還を求められたときにほぼ通りません。
原則は3つです。普通に住んで生じる損耗(通常損耗)は大家負担。時間で自然に劣化する分(経年劣化)は大家負担。故意・過失や手入れ不足による損傷だけが入居者負担。つまり「普通に暮らしていて傷んだ部分は大家持ち」が大原則で、築古物件の損耗のほとんどは経年劣化に分類されます。
項目別に見ると、日焼けによるクロスの変色、家具の設置による床のへこみ、画びょうやピンの小さな穴、冷蔵庫裏の電気焼け、テレビ裏の壁の黒ずみは大家負担です。タバコのヤニ汚れやにおい、ペットによる傷やにおい、釘やネジの大きな穴、キッチンの油汚れの放置、結露を放置したカビは入居者負担になり得ます。
さらに、入居者負担になる損傷でも、設備の耐用年数を考慮した残存価値の分しか請求できません。クロスとカーペットは6年、給湯器は15年が目安で、クロスは6年経つと残存価値が1円とみなされます。築8年の物件で全面張替えを請求しても、ほぼ取れません。
冒頭の大家さんの請求が通らなかった理由は3つ重なっていました。ヤニ汚れは入居者負担になり得るが、契約書に喫煙の条項がなく、入居時の状態を示す写真もなく、全面の張替え費用を残存価値を無視して請求した。ガイドラインを知っていれば、請求額は数分の一になり、揉めることもありませんでした。
| 項目 | 負担 | 考え方 |
|---|---|---|
| 日焼け・家具の跡・電気焼け・画びょう穴 | 大家 | 通常損耗・経年劣化 |
| タバコのヤニ・におい | 入居者(条件つき) | 喫煙条項の有無と残存価値で判断 |
| ペットの傷・におい、釘の大きな穴 | 入居者 | 故意・過失。残存価値の分まで |
| 結露を放置したカビ | 入居者(条件つき) | 換気の案内をしていたかが鍵 |
| クロス・カーペット | 耐用年数6年 | 6年で残存価値1円 |
📸 やり方: グレーゾーンの判断と、防ぐための「たった1つのこと」
特に揉めやすいグレーゾーンは3つです。タバコのヤニ汚れは、契約書の喫煙条項の有無で判断が分かれます。画びょう穴と釘穴の境目は、穴の大きさと数で判断します。軽微な汚れか手入れ不足かは、清掃の痕跡で判断します。どれも判断軸は「通常使用の範囲かどうか」です。あなたの賃貸借契約書には、喫煙やペットの条項が入っていますか。筆者の物件では、契約書に喫煙不可と違反時の負担を明記してから、退去時の揉めごとが激減しました。
そして、防ぐためにやるべきたった1つのことが「入居時の記録」です。原状回復のトラブル防止は、入居時の準備で9割決まります。後出しの主張は、大家側も入居者側もほぼ通らないからです。入居時にやることは6つ。室内全体の写真を100枚以上撮り、日付を残す。既存の傷や汚れを「入居時確認書」に記録する。入居者と一緒に立ち会い、双方のサインをもらう。水回りとコーキングの状態も写真で残す。床・壁・天井の細かい傷もアップで撮る。冬の入居なら結露と窓まわりを必ず記録する。
札幌の物件では、結露が出やすい窓枠や北側の壁面を入居時に押さえておくのが必須です。結露由来のカビは特に揉めやすく、入居時に「換気のお願い」を書面で渡しておくと、退去時の立証がスムーズになります。写真データはクラウドに保存し、契約期間に5年を足した期間は保管してください。
入居時に20分かけて撮影しておくだけで、退去時のトラブルの発生率は劇的に下がります。筆者の経験では、写真と署名入りの確認書がある部屋で揉めたことはほとんどありません。逆に、これがない部屋は、大家が正しくても証明できません。
ハウスクリーニングの費用負担も、契約書に金額を明記しておきます。札幌の相場は1R・1Kで25,000〜35,000円、3LDKで70,000〜100,000円程度です。「入居時に手を抜かない」が、退去トラブルを防ぐ最大の秘訣です。
- ✅ 契約書に喫煙・ペットの条項と違反時の負担を明記した
- ✅ 入居時に室内全体を100枚以上撮影し、日付を残した
- ✅ 既存の傷・汚れを入居時確認書に記録し、入居者と双方でサインした
- ✅ 水回り・コーキング・窓枠の結露跡を写真で残した
- ✅ 「換気のお願い」を書面で渡した
- ✅ 写真データをクラウドに保存し、契約期間+5年は保管する
🧭 マインド: 敷金精算は手順どおりに、感情ではなく書面で
敷金精算は、進め方ひとつで揉める・揉めないが分かれます。手順は5つです。退去立会いで損傷箇所を入居者と一緒に確認する。写真を撮り、損傷の原因をその場で口頭で確認しておく。耐用年数に応じた負担割合を計算して見積もりを出す。見積書と精算書を文書で交付する。敷金との差額を退去から1か月以内に返金する。
やってはいけないのは、立会いなしで一方的に費用を差し引くことと、請求書をいきなり送りつけることです。どちらも後から減額交渉で揉める典型で、訴訟に発展する形です。敷金は通常、家賃の1〜2か月分。精算は必ず項目別に明細化してください。
計算例を挙げます。家賃6万円、敷金12万円(2か月分)、ハウスクリーニング3万円、入居者の故意による壁穴の補修1万円なら、返金額は8万円です。明細があれば、入居者も納得しやすくなります。交渉のコツは「ガイドラインに沿って計算しています」と根拠を示すこと。入居者が消費生活センターに相談しても、結論はほぼガイドラインどおりになるので、最初から正しい計算で出すのが結局いちばん早いのです。
冒頭の大家さんは、その後の入居者から、写真100枚と署名入りの確認書を残すようにしました。次の退去では、ガイドラインに沿った明細を立会いの場で示し、精算は10分で終わったそうです。「弁護士を呼んだあの1件で、入居時の20分の価値が分かった」と話していました。
感情的にならず、淡々と書面でやり取りする。これが大家に求められる姿勢です。原状回復は、ルールを知っている大家ほど無駄な出費を減らせる分野です。まずは今日、自分の契約書に喫煙・ペットの条項が入っているか確認してみてください。それだけでも、次の退去のリスクが大きく下がります。
💡 ポイント
敷金精算は「立会い → 記録 → 計算 → 文書で交付 → 1か月以内に返金」の順で。ガイドラインに沿った明細を示せば、揉めごとの大半は防げます。
📌 この記事のまとめ
- 原状回復の大原則は「普通に暮らして傷んだ部分は大家負担」です。入居者に請求できるのは故意・過失の分だけで、しかも残存価値の範囲までです。
- 防ぐためにやるべきたった1つのことは「入居時の記録」。写真100枚と双方サインの確認書があれば、退去トラブルの9割は起きません。
- 敷金精算は立会い・記録・計算・文書・返金の手順どおりに、感情ではなく書面で。まずは今日、契約書に喫煙・ペットの条項があるか確認してください。


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